春、夏、秋、冬。彼女が色を失ってからも、季節は沢山の色を抱えて巡る。はじめはその不変の真理が残酷に思えたが、今ではすべてを受け入れることができるようになった。僕も、彼女も。

「ハリー?へえ、すごく良い名前ね」
 たのしそうな笑い声がどこからか聞こえてくる。リビングから続く、まるで細い蛇のように伸びる電話コードに従っていけば、薔薇の花々が咲く庭へ出る。そしてそこには、ベンチに座り、白の電話を抱えておしゃべりに夢中な彼女の姿があった。
「うん、リーマスも私も元気にしてる。また今度、家に遊びにきて。もちろんハリーも一緒にね」
 彼女は電話の向こうのリリーに笑顔を送り、静かに受話器を置いた。
「リーマス、いるんでしょう?」
 テーブルにカップを並べてティーポットを傾ければ、あまい空気に淹れたての紅茶の香りが溶け込んだ。彼女の手にカップを取らせて、もちろん居るよと答えれば、突然「あっ」と声をあげた。
「リリーに言うのを忘れてた。"いま私、青空の下、薔薇の咲く庭でリーマスとお茶してるの"って」
 いつか彼女は、「これは天が私に課した試練なの。神は乗り越えられない試練を与えるほど意地悪じゃないはずよ」と言った。その通りだと、いま思う。暗闇のなかでは、他の人が見落としてしまいそうな微かな光でも感じることができるということを知った。人には四つの目があることも知った。
「リーマス、いま笑ってるでしょう」
 そして心の内にあるその目は、霞むこともなく、いろどりは褪せることもなく、万物を映す。
「 笑ってるよ 」


(2008.12.21)