玄関の扉を開けると、廊下の角から見馴れた布が覗いていた。息を吐き、見えなかったふりをして靴を脱いでいると、「遅い!」と声が飛んで来る。
「主役を待たせるなんてどういうつもりなのー?サスケくーん?」
 ひょいっと角から現れたは、ふくれっ面でサスケに詰め寄った。黒のブレザーにチェックのスカート。その左胸にはコサージュが飾り付けられていた。淡い黄色のバラを引き立たせるように、ピンクやブルーの小さな花が添えてある。が動くたびに、黒髪の毛先がそのコサージュをくすぐっている。
「部活の追い出し会だったんだよ。言ってただろ」
「私だって言ってたのに。9時には帰って来てって」
 スカートの裾を握り締め、唇をとがらせながら言うの横を通り過ぎようとすると、
「バスケ部の先輩と私とどっちが大事なのよー」
と、背中を叩かれた。
「卒業したのはお前だけじゃねーんだよ。勝手なことばっか言うな」
 煩わしそうに言ったサスケは、ぽこぽこと背中を叩き続けるに構わず、そのまま廊下を進む。
 そうしてリビングの扉を開けると、
「おかえり、サスケ」
 サラダが盛り付けられた皿をテーブルに置きながら、イタチが振り返った。彼は、サスケの後ろで口角を下げるを見て、呆れたように笑った。
「買って来てくれたか?」
 ソファの上に鞄を置いたサスケは、そう訊いたイタチに手提げ袋を差し出した。はイタチの元に駆け寄ると、袋の中の白い箱を見て、首を傾げた。
「ケーキ?」
 そう口に出したときには、すでにの目は輝いていた。
「近所の店で良かったのに。このケーキ屋、今評判のところだよな。遠かっただろう」
 イタチのその言葉に、は袋に記された店の名前を確認し、「この前テレビに出てたお店だ!」と声を上げる。
「もしかして、それで帰りが遅くなったの?」
 サスケが曖昧な返事をすると、は途端にその首に抱き付いた。
「ありがとー!良い子ー!」
「やめろ!離せこのウスラトンカチ!」
 そんな二人を見て微笑みながら、「そろそろ始めるか」とイタチが言った。は嫌がるサスケの首に腕を回したまま、満面の笑みで頷いた。
「始めよ始めよ!私の高校卒業祝い!」





(2011.6.12)